
東北大学歯学部では、この「1口腔1単位」の考え方が徹底しています。1本の歯だけ治せばいいだけでなく、他の歯、歯周組織、顎関節に至るまで、治療計画に反映させなければいけません。
1口腔1単位とは
「1口腔1単位」とは、口の中に生じた問題を個別に切り取って処置するのではなく、口腔全体をひとつのまとまりとして診断・治療にあたるという考え方です。虫歯があれば「その歯だけ治す」、歯茎が腫れていれば「その部分だけ処置する」という対症的な診方ではなく、なぜその問題が生じたのかという原因まで含めて、口腔全体の状態から読み解くことを重視しています。
歯は互いに密接に関連しながら機能しています。1本の歯が失われれば隣の歯が傾き、噛み合わせのバランスが崩れ、顎関節や周囲の筋肉への負担が増していきます。また、噛み合わせに偏りがあると特定の歯に力が集中し続け、見た目には問題のない歯が想定外の早さで傷んでしまうこともあります。こうした連鎖を断ち切るには、症状が出た部位だけを見るのではなく、口腔全体のバランスを把握したうえで対処することが必要です。
当クリニックでは、この考え方を診療の基本に置いています。初診時にレントゲンや口腔内写真、噛み合わせの確認など複数の検査を組み合わせて口腔全体の現状を把握し、今起きている問題と背景にある要因を整理したうえで治療の方向性を決めています。その場の痛みや症状を取り除くことにとどまらず、同じ問題が繰り返されにくい口腔環境を整えることが、この診療方針の目指すところです。
患者様のメリット

1口腔1単位の考え方に沿った診療を受けることで、患者様にはいくつかの実質的な利点があります。
もっとも大きなものは、治療の効果が長続きしやすい点です。虫歯の部分だけを修復しても、噛み合わせの問題が残っていればその修復物に過度な力がかかり続け、短期間で外れたり破折したりすることがあります。口腔全体のバランスを整えたうえで各処置を行うことで、ひとつひとつの治療の結果が安定しやすくなります。
同じトラブルが繰り返されにくくなることも、患者様にとって大きな意味を持ちます。「治してもまた虫歯になる」「何度も同じ歯の詰め物が取れる」という経験をされている方の多くは、問題の根本的な原因が解消されないまま修復を繰り返している状態です。原因にまで目を向けた治療は、こうした負のサイクルを断つことにつながります。
加えて、治療の全体像が見えることで、患者様が安心して通院を続けられます。「今何をしているのか」「次にどんな処置があるのか」「治療の終わりはいつ頃か」といった疑問が解消されることは、治療への納得感を生み、長期的な口腔の健康管理にも前向きに取り組む姿勢につながります。
1口腔1単位の実践
治療計画の立て方
治療計画は、口腔全体の状態を把握する検査から始まります。レントゲン撮影で歯や骨の状態を確認し、歯周組織の検査で歯茎や支持骨の状況を記録します。口腔内写真によって現在の状態を視覚的に記録しておくことで、治療の経過を客観的に比較することも可能になります。噛み合わせの確認も合わせて行い、これらのデータをもとに問題点とその優先順位を整理します。
治療計画は患者様にわかりやすく説明したうえで進めていきます。どの問題から取り組むか、各処置の目的、全体にかかる期間の目安、費用の見通しなどを事前にお伝えし、患者様が納得されたうえで治療を開始します。計画は途中で状況が変わることもありますが、その都度丁寧にご説明しながら進めていきます。
治療の順序には原則があります。急性の痛みや炎症の対処を最初に行い、次に歯周環境の安定を図ります。歯茎や骨の状態が落ち着いてから、虫歯の治療や補綴処置(詰め物・被せ物・入れ歯など)へと進むのが基本的な流れです。土台となる部分から順番に整えていくことで、後の処置の精度と安定性が高まります。
具体的な治療例
たとえば、複数の歯に虫歯があり、加えて歯周病の兆候も見られる患者様のケースを考えてみます。この場合、痛みのある歯だけを先に治療して終わりにするのではなく、まず歯周病の状態を安定させることを優先します。歯周環境が不安定なままでは、その後に入れた補綴物が長持ちしないからです。歯茎の状態が改善した段階で虫歡治療を進め、最終的に噛み合わせ全体のバランスを確認しながら仕上げていきます。
別の例として、奥歯を失って長期間放置していた患者様の場合、失った歯の両隣が傾いていたり、噛み合う側の歯が伸び出していたりすることがあります。この状態で単純に失った歯を補うだけでは噛み合わせが安定しないため、傾いた歯の整復や伸び出した歯への対処を含めた計画を立てたうえで、補綴処置に進むという順序が必要になります。いずれの場合も、口腔全体を見渡した治療計画があってこそ、個々の処置が意味を持ちます。
1口腔1単位の治療がもたらす長期的な効果

予防歯科としての役割
1口腔1単位の診療は、治療が終わった後の口腔の維持管理にもつながっています。問題の根本原因を整理して治療を進めることは、次の問題が起きにくい環境をつくることでもあります。この点で、1口腔1単位の考え方は予防歯科の理念と重なります。
治療後は定期的な健診とプロフェッショナルによるクリーニングを続けることで、整えた口腔環境を維持していきます。定期的に口腔の状態を確認することで、新たな問題の芽を早期に発見することができます。「悪くなってから治す」のではなく「問題が起きにくい状態を保つ」という姿勢が、長期的に見て治療の総回数や費用を抑えることにもつながります。
患者の生活の質向上
口腔の健康が整うことは、日常生活の質に直接影響します。食事をしっかり噛めることは消化を助け、栄養の吸収にも関わります。正しく噛める状態が保たれることで、食事の楽しみや満足感も変わってきます。口腔内の状態が慢性的に悪い場合、口臭や見た目への気がかりが人との関わりに影響することもありますが、口腔環境が改善されることでそうした心理的な負担も軽くなります。
さらに、口腔の健康と全身の健康は無関係ではありません。歯周病が糖尿病や心疾患などと関連があるとされていることは、歯科の分野を超えて広く知られるようになっています。口腔を全体として整える治療は、全身の健康を支える基盤を作ることにもつながっています。
口腔の状態が気になる方、他院で治療を繰り返しているがなかなか改善しないと感じている方は、ぜひ当クリニックへご相談ください。口腔全体の現状を丁寧に確認したうえで、患者様に合った治療の方針をご提案します。
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